「てめぇの夢って何だよ?」
深夜の酒盛りの最中、ふとサンジが口にした。
「世界一の大剣豪ってのは知ってる。そうじゃなくて、もっと漠然とした可愛ーい将来の夢ってないのかよ」
だいぶ酒が回っているのか、マリモに可愛いって似合わねーとげらげらと笑っている。
まだまだ素面のゾロは律儀に首を捻った。が、いまいち質問の内容が良く分からない。
「そういうてめぇの『かわいいしょうらいのゆめ』は何なんだ?」
問い返すと、サンジは口端をつり上げた。
「俺はオールブルーの側でレストランを開くことだな。イーストからジジィが食べに来るくらい美味い料理を出す店で、傍らには俺だけの可愛いスゥィ〜トハニィ〜が−−」
「アホか」
ぼそりと口に出すと、耳聡く聞きつけたサンジが猫のように目をつり上げる。文句が出る直前に、最後の一切れのサンドイッチを口に突っ込んだ。食べ物を吐き出すなんて死んでも出来ないだろうコックは、不満そうな顔で口を動かしている。
その隙に、ゾロは考えた。大剣豪になる以外に自分が思い描くことといえば−−。
「てめぇを連れて先生に挨拶に行く事、とか−−」
なんとなく思いついたことだが、口に出してみるとそれ以上の『夢』はない気がしてくる。
「それって、大剣豪になった報告か?」
嫌な予感がするのか硬い声でサンジが聞いてくるのに、ゾロは首を振った。
「必要ねぇだろ。天国に届くくらい強くなるんだ。いくら辺境でも村まで噂は届くだろ」
「まぁ、そうだな…」
不安そうなサンジとは裏腹に、ゾロは懐かしそうに目を細めた。
「そういや、先生から言われてたんだ。いつか一生添い遂げたいと思う相手が出来たら連れておいで、ってな」
「ちょっと待て! それって結婚相手のことだろ!? 何でそこで俺が……」
「結婚は出来ねぇかもしれねぇけど、俺が一生添い遂げたいと思うのはおま」
「うわーーっ! それ以上言うな! 口に出したら3枚におろすっ!!」
これ以上続けるといい加減仲間が起きてしまいそうで、ゾロは大人しく口をつぐんだ。酒瓶を傾けながら、肩で息をしているサンジにも酒を勧める。
「ちっくしょう、可愛くねぇ……」
サンジはヤケになったように、ぐっとグラスを呷る。そして、空のグラスをゾロの顔へと突きつけた。
「いいか! 俺ぁ今言った夢を譲る気はねぇからな!」
「あぁ?」
グラスの陰でみるみる赤くなっていくサンジに気をとられながら、ゾロは曖昧に首を傾げる。
「だから! 俺をてめぇの先生に紹介したいなら、お前も責任持って『可愛いスイートハニィー』になれよ!!」
「−−善処する」
俺が可愛げないのを補って有り余るほどお前が可愛いから問題ねぇだろ、とは口に出さずにゾロは真面目に頷いて、首まで赤くしている『添い遂げたい相手』を抱き締めた。