全長1.78メートルの世界

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「帰ったぜ〜」
 久し振りに家に戻ったフランキーが居間に顔を出すと、上3人が揃っていた。
 珍しいことに、食事担当のサンジがテーブルにつき、財政担当のナミが台所に立っている。しかも、サンジは食事中なのにゾロはこれかららしい。
 あまり家にはいないフランキーでも分かる『非日常』に首を傾げながらテーブルについた。
「お、良いモン食ってんじゃねーか」
 サンジが食べているのは、たっぷりと大根おろしソースがかかった厚いステーキだ。
「1切れくれ」
「え〜っ」
 食わせたがりのサンジが、ルフィの様に不満の声を上げた。
「せっかくナミさんが作ってくれたのに…」
「フランキー、ご飯まだなの?」
 キッチンからナミが顔を出す。
「おうよ。腹はペコペコだし、コーラは足りねぇしで倒れそうよ」
「お肉もう1枚あるわよ。ゾロの後で焼いてあげようか?」
「おう、頼むわ」
「取り敢えずコーラ飲んでて」
 冷蔵庫にコーラを取りに行ったナミを、サンジがおろおろと見ている。
「ナミさん、火を使っている時はコンロの前から離れたらダメだよ」
「え? あっ!」
 控え目なサンジの注意に、ナミはあたふたと奥へ戻る。
 途端にガチャガチャと騒がしい音が聞こえだしたキッチンに、ゾロが何かを諦めた様に大きなため息を吐いた。
「おい! 焦がしても良いから火傷すんなよ!」
 ゾロが声を張り上げて少しして−−ナミがばつの悪そうな顔でステーキ皿を運んできた。
「ごめん、失敗しちゃった…」
 いつになく神妙に、ゾロの前に皿を並べる。
「見りゃ分かる」
「(うおっ…!)」
 皿を間近で見たフランキーは思わず出かかった声を飲み込んだ。
 一見付け合わせだけが乗っている様に見えたが、そうではなかった。黒鉄のステーキ皿と同じ色になった肉が、中央に鎮座している…。
「ご飯とサラダ持ってくるから」
 逃げる様にキッチンに戻っていったナミを見送って、顔色ひとつ変えていない長男にこっそりと声をかける。
「なあ、これって本当に食べられるのか?」
「『食べられる』じゃねえ。『喰う』んだよ」
 ナイフを入れると、サリッと肉にあるまじき音がする物体を前にしてこんな返事が返せるとは。
「ロロノア、お前ぇ、ちょっと会わないうちに随分男前になったなぁ」
 感涙に咽び泣くフランキーを、ゾロは冷たく見遣った。
「他人事みたいに言えるのも今のうちだからな」
「おい!」
 サンジに注意されて2人が口をつぐんだところで、ナミが戻ってきた。
 ライスとサラダを置きながら、黒い塊を口に運んんでいるゾロを制止する。
「…ゾロ、無理して食べなくても良いよ。何か別のモノ用意するから」
「無理してねぇから気にすんな。最初はウソップもサンジもこんなもんだったからな」
「サンジくんも?」
「うちはコンロの火力強いからね、油断してよく焦がしたよ」
 昔を思い出して苦い顔のサンジとは対象に、ナミはホッと息を吐いた。
 晴々とした顔で、にっこりと笑う。
「次はフランキーの分ね! 腕によりをかけて作るから!」
「お、おう! 頼むぜ、嬢ちゃん」
「任せて!」
 うきうきとキッチンに向かうナミを、サンジが心配そうに見送る。
「大丈夫かなぁ、ナミさん…」
「ダメだろ、ありゃ。全っ然反省してねえ」
 2人はため息をついて、フランキーの肩を叩いた。
「まあ、頑張れよ、『親父』」
「『兄貴』よりも男前なとこ見せてくれよ、『父さん』」
「…………」
  ジュワーー〜ッ
 有り得ないくらい大きな肉の焼ける音が、フランキーの返事を掻き消した。
 

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