剣道部の後輩達と帰る途中、通学路沿いのハンバーガ屋に弟の姿を見つけてしまった。
制服で喫煙席に居座る金髪と、ペコペコと頭を下げる学ランの黒髪。
声は聞こえなくとも、会話は想像がつく。
ゾロは周囲に軽く挨拶をすると、店内に足を踏み入れた。
「おごって下さい! お願いします!」
途端に店内に響いた声に顔をしかめる。
「いらっしゃいませ、Mr.ブシドー」
にこにこと顔見知りの店員が出迎えてくれた。
「注文が決まっているなら、お席まで持って行きますよ」
「悪ぃ。新商品のバーガセット。ポテト増量で。飲み物は−−」
「氷抜きのメロンソーダとアイスティ、でしょ?」
すっかり覚えられているのが情けないが、嘆いている余裕はない。
「…頼む」
財布を渡して喫煙席に急ぐ。
サンジが紫煙を吹きながら、冷たくルフィに言い放ったところだった。
「奢って欲しけりゃ土下座しな」
「おう!」
「情けないことしてんじゃねぇ!!」
躊躇いもなく膝を折ろうとするのを、感一髪で襟首を捕まえる。
「お、ゾロ!」
「ちっ、ゾロかよ…」
対称的な反応を返す弟達を引きずって喫煙室を出ると、並べて1発ずつ拳を落とした。
「ルフィ、店で騒ぐな。他の人に迷惑だ。サンジ、外では煙草は止めろと言ってるだろう」
だって、と2人は揃って口を尖らせた。外見は面白いくらい似ていないが、流石に兄弟だけあって同じ仕草をする。
ゾロは笑いそうになるのを堪えて仏頂面を維持した。
「だって腹減ったんだよ。それなのにサンジが…」
「だってルフィが奢れってうるさくて…」
「だって、じゃねぇ!」
声を抑えて叱ったところで、ビビが注文のトレーを持ってきた。
「あまり怒らないであげて下さいね、Mr.ブシドー」
珈琲サービスしますから、と微笑まれては怒っていられない。
いつも悪ぃな、と笑ってトレーを受け取った。
「……お前ら」
2人の目はトレーに釘付けだ。サンジは新商品のバーガに、ルフィは山盛りのポテトに。
「ほら、冷めないうちに食えよ」
サンジにバーガとアイスティを渡す。
「ゾロ、俺も!」
あ〜んと大口をあけるルフィにポテトを1本摘んで差し出すと、ぱくりと食いついた。
そのまま渡すと流し込む様に食べ尽くしてしまうので、外では誰かが食べさせるのが決め事だ。
サンジは味を確認する様に難しい顔でバーガを食べている。
「どうだ?」
「う〜ん、組み合わせは新しいけど、ちょっとくどいかなぁ。もう少しソースの塩気を控えれば…」
ぶつぶつと呟くサンジに1本差し出すと、パクンとくわえた。
「ゾロ、飲み物も!」
「おかわりはないからな」
メロンソーダを渡して自分もポテトを摘む。
「食ったら帰るぞ」
「夕飯の買い物あんだけど」
「商店街だろ。ルフィ、奢ってやったんだから荷物持ちくらい手伝えよ」
「おう!」
ガラス越しに見える兄弟3人のほのぼのとした様子に、通り掛かる人達が足を緩める。店に入ってくる人も少なくない。
それは、この町では馴染みの風景だった。