全長1.78メートルの世界

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「すべての事件は必ずロジックで説明出来る」

 そう言い切られたのが何だか悔しくて、思わず小声で吐き捨てた。
「ロジックで説明できないことはさっぱり理解不能なくせに」
 耳聡く聞き付けた御剣が、バカにした様な笑みを浮かべた。
「そんなものがどこにある?」
 ロジックで説明出来ないもの。ぼくは御剣みたいな天才じゃないから、そんなの1つしか思い付かなかった。昔から説明がつかないことの代表例といえば−−
「愛!」
 言い切ったぼくに、御剣は一瞬虚をつかれたような顔をした。
『I』とか『i』とか『藍』とか、同音異字が頭に浮かんでいるのが目に見えるようだ。

「愛?」

 漸く正解に行き当たったらしい御剣は、呆れたように肩を竦め、軽く頭を振った。
「『愛』など己の感情を取り違えただけのまやかしだ」
「どうしてだよ。説明出来ないなら出来ないって言えばいいだろ」
 むっとして言い返すと、嘲るように笑われた。
「ならば聞くが『愛』の定義はなんだ?」
「えっ? ……『人を好きになる心』かな?」
「それでは同性の知人に対しての好意も『愛』になるが?」
「……。」
 御剣に言い返せなかった。『人』を『異性』に言い直せばいいのかもしれない。でもそれだと自分の心を否定するみたいで、どうしても言えなかった。
「定義出来ないのならば、記号や数値と同じ扱いになる。三角形の面積が底辺×高さ÷愛で求められるのか? 円の面積が半径×半径×愛だとでも−−」
「っもういい!」
 それ以上聞いてられなくて、ぼくはその場を逃げ出した。
 御剣はきっと誰かを好きになったことがないんだ。だからあんなことが言えるに決まってる。愛も分からない御剣なんか、最低の人間だ!
 それなのに、どうしてぼくはこんなにあいつが好きなんだろう…。
 自分のバカさ加減が泣くほど悔しかった。


−−っていう夢を見た。ぼくと御剣が再会したばかりの頃のことだ。
 なんだか懐かしく思いながら起き上がると、枕になってくれてた御剣が本から顔を上げた。
「もう起きるのか? やはり寝心地が悪かっただろうか……」
「ううん、そんなことないけど」
 大の男の膝なんか固いし高いしで良いことないけど、御剣の膝枕で寝るのは結構好きだ。
「足、痺れるだろ」
「構わない」
 即答に笑いそうになった。否定しないところがお前らしいよ。
「でも、やっぱりいいよ。せっかく2人で居るのに、寝てたらもったいないし」
「そうか」
 御剣は目を細めて、読んでいた本を閉じてサイドテーブルに置いた。
「本、読まないのか? わざわざどっかから取り寄せたんだろ?」
「その通りだが、せっかく君が隣りに居るのに読むほどのものでもない」
 微笑む御剣に、ぼくは言葉を失った。
 なんか、人間、変われば変わるもんだよな…。ホント、あの頃のぼくに教えてやりたいよ。
「どうした、成歩堂?」
「ん? なんでもないよ」
 そんなことを思いながら、ぼくはゆっくりと目を閉じた。
 察した御剣がキスしてくれるのは、きっと、すぐ。


劇場版『ガリレオ』予告編パロ

 

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