「崇、もう寝ちゃってる?」
かなり遅い時間になってから、光邦は道着姿で崇の部屋を訪れた。
「どうした?」
出迎えた崇は既にパジャマを着ている。髪はしっとりと濡れ、眼鏡をかけ、本当に寝る直前だったらしい。
「うーんとね、お月さまがきれいで寝ちゃうのがもったいないし、崇と組み手とかしたいなーって」
「分かった。少し待ってくれ」
部屋に招き入れられた光邦は、そのまま洗面室まで崇に付いて行った。
「あ、やっぱり入れちゃうんだー」
崇がコンタクトを手に取ると、光邦が残念そうに声をあげる。
一時動作を中断して自分の言葉を待っている幼馴染に、光邦は軽く唇を尖らせて答えた。
「組み手の時に眼鏡してると危ないからしょうがないんだけどねぇ」
洗面台の端に腰掛けて、足をぶらぶらと揺らしている。本気で止めている訳ではないと悟った崇は、そのままコンタクトをつけ始めた。
「眼鏡の崇って久し振りに見たよ。もうちょっと見てたかったなー」
「そうか」
「ねぇ崇。崇は眼鏡キライ? 僕は眼鏡の崇も格好良いと思うんだけどなー」
「あまり好きではないな」
コンタクトを入れ終わった崇は、何を思ったかもう一度眼鏡をかけた。
「崇?」
そして、きょとんと首を傾げる光邦に顔を寄せる。
察した光邦は、不思議そうな顔をしながらも、そっと目を閉じた。
ぺたっ
二人の唇が触れ合う前に、眼鏡のレンズが光邦の頬に触れた。
「−−−−。」
「…………。」
光邦がむっとして目を開けると、崇が苦笑いしながら眼鏡を外していた。
「邪魔、だろう?」
「だから崇は眼鏡が好きじゃないの?」
「そうだ」
真顔で頷く崇の前で、光邦はもう一度目を閉じた。
すぐに、少し冷たい唇が触れてくる。
光邦ご希望の組み手だったが、始められるのはもう少し先になりそうだった。