「ナミとロビンがおれのこと、縫いぐるみみたいだって言うんだ」
涼しげに飾り付けられたトロピカルティを飲みながら、チョッパーが口を尖らせた。
「おれは男なのに。そんなこと言われたって嬉しくないって何回も言ったのに、2人とも聞いてくれないんだ!」
実際縫いぐるみみたいだからな、と思いつつ、ゾロはゼリーを口に流し込んだ。凍る1歩手前まで冷やされたゼリーは意外に食べ応えがある。
「あーあ、おれもゾロみたいだったらなー」
チョッパーにため息混じりに言われて、ゾロは小さい毛皮を見下ろした。
「そうか? 街であまり絡まれなくて良いじゃねぇか」
「……ゾロやサンジはよくケンカ売られてるね」
頷きかけたチョッパーは、思いついたようにふるふると首を振った。
「で、でもそれは、おれがナメラレてる証拠だって」
「外見で強さを判断するのは雑魚だ。放っておけ」
「おれ、毛皮だから、夏は暑いし」
「良い鍛錬になるだろ」
「それに−−」
まだ言いつのろうとするチョッパーの口にゼリーを放りこんだ。冷たさと美味しさに黙った隙に、鼻先に指を突き付ける。
「チョッパー、お前は剣士か? 医者だろう? 医者だったら、万人から警戒されないぬいぐるみみたいなナリは、大歓迎じゃねぇのか」
目を白黒させながら、チョッパーはなんとかゼリーを飲み込んだ。ゾロの迫力に押されたように、おずおずと口を開く。
「でも、おれよりゾロの方が子供と動物は懐いてるぞ」
まだまだ子供で動物なチョッパーが言うと説得力があったが、ゾロは鼻で笑った。
「なんだ。お前は子供と動物だけしか診ないのか?」
「違うぞ! おれは、誰でもなんでも治せる医者になるんだからな!」
「じゃあ今の方が良いじゃねぇか」
「−−うん。そうだな」
漸くチョッパーはにっこりと笑った。どうやら機嫌もなおったようだ。
タイミング良く、甲板からわいわいと歓声が聞こえてきた。他のクルーのおやつも終わったらしい。
「チョッパー! 釣りしようぜ、つーりーーっ!」
ルフィの声がして、チョッパーはわたわたと立ち上がった。
「うーん! 今いくーっ!」
おやつの器やグラスを片付けようとするのを制して背を押した。
「俺がやっておくから行ってこいよ」
「うん! ありがとう、ゾロ!」
とてとてと走っていく様は縫いぐるみよりもずっと可愛らしい。嫌がられていると分かっても構ってしまうナミとロビンの気持ちも分からなくもないが、チョッパーが完全に拗ねてしまうまで弄るのはやりすぎだろう。
片付けついでに1言言ってやろうと考えながら、ゾロは慣れないことで強張った身体を大きく伸ばした。