コミック第3話より(黒ハニー注意)
「あれぇ?」
崇の背から降りようとした光邦が、困ったような声を上げた。
「ぞうり、片方落としちゃった…」
言われた崇が目をやると、確かに光邦の片足は直に地に着いている。
本日のホスト部のテーマは『和』。着物にぞうりの装いでも、いつものように負ぶったのがいけなかったのだろう。
「探してくる」
背負った時にはきちんと履いていたのだから、ここまで来た道を辿ればすぐに見つかる筈だ。
一緒に行くか? と尋ねる様に両手を広げたが、光邦はふるふると首を振った。
「崇が探してきてくれるんでしょう? 僕、ここで泣いて待ってる」
崇の頬が微かにひきつる。
「泣いて…?」
「そう!」
一応確認の為に聞き返すと、元気良く返事が返って来た。
「そうしたら崇、一生懸命探してくれるでしょ? ね!?」
邪気のなさそうな満面の笑みで聞き返される。
そんなことをしなくても、当然崇は手を抜いたりしない。光邦もそれは良く分かっている筈だ。
だから崇は特に反論はせず、真面目な顔で頷いた。
「すぐ戻る」
ぽふっと光邦の頭に手を置いて、今来た道を駆け戻っていく。
「格好良いですな〜」
大柄の幼馴染の背を見えなくなるまで見送ってから、光邦はきょときょとと辺りを見回した。
目に入ったのは、最近入部したばかりの特待生。
残ったぞうりを手に持つと、光邦はべそべそとしゃくりあげた。
「はるちゃん、はるちゃん」
ぐすぐすと泣きながらハルヒに近寄る。
「ぞうり片っぽ、なくなった…」
というのが真相だったら恐ろしいね! という話。