「君って、ぼくのどこを好きになったの?」
「突然なんだ?」
なんだと言われても、思い浮かんだから聞いてみただけなんだけどさ。
「どこを好きかって聞くと『全部』って答えるじゃないか。だから発想を逆転させて『最初に好きになったのは』どこなのかなって」
御剣は顔をしかめた。高そうなティーカップを皿に置いて腕を組む。指先がトントンと軽いリズムを刻んでいる。
ぼくは紅茶をゆっくりとすすった。熱いけど、火傷するほどじゃない。これくらいが紅茶の適温なんだって教えてくれたのは御剣だ。
知識が豊富なところも好きだし、お茶の時間の軽い話題を真剣に考えてくれるところも好き。
でも、最初に好きになったのはって言われると−−。
『その必要はない!』
やっぱり『声』かな。
学級裁判でそう言ってもらえて、どれだけ嬉しかったか。
ツラい時、悲しい時、落ち込んだ時。御剣の声を、言葉を、何度も思い出した。
だから−−
「『声』だな」
一瞬、考えていたことを口に出してしまったのかと思った。
きょとんとしたぼくに、御剣は気まずそうに視線をそらした。
「いけないだろうか」
「えっ! いやいや、そんなことないけど! でも声って…」
「君の声はよく通るし、耳触りが良いからな。同じクラスになる前から何となく知っていた」
「あー、そうですか…」
会う前から声は好き、か。
自分からふった話だけど、なんだか恥ずかしいな。
「それで、君の方はどうなのだ?」
答えてしまった余裕からか、御剣はゆったりとソファに座ってぼくを見た。
「あー、うん、ぼくも『声』からだったよ」
御剣は学級裁判のことは覚えてないみたいだから、詳しくは言わないけど。
「そうか。同じだな」
こんな些細なことに、すごく嬉しそうに笑うから。もう1つの共通点も教えてしまおう。
「今好きなのは『全部』だけどね」